Q02: 海外進学にまつわるお金の話

グローバル進路相談ならどんとこい。
日英中のトライリンガル・自力で海外進学の道を切り拓いた
“ねね”が日本の高校生のお悩みをサクッと解決!

<回答者プロフィール>Shirakawa
白川寧々 (Ning Neinei)
TAKTOPIA共同創業者。MITx Entrepreneurshipプログラムアドバイザー。
マサチューセッツ工科大学(MIT)経営学修士、アントレプレナーシップを学ぶ。中国生まれのフェリス女学院育ち。17 歳で一念発起し、塾にも語学留学にも一切頼らず、完全独学で、TOEFL、SAT、エッセイの洗礼を受け、Duke 大学に進学。卒業後は米会計系コンサルタントとして働く。英語圏での活躍を夢見る日本の学生の力になりたいと思い、英語学習プログラム「ネイティブ脳」をMITのFellowshipを受けて立ち上げる。

 

皆様、おはようございます。白川寧々です。
今日の相談を始める前に、「挑戦すること」に対するひとりごとをば。

日本で海外進学のススメとか、その先の未来とか、英米大学のメリットとかそういう話をすると決まって、(たまーに)いらん大人がいらんコメントをしてくることがある。

「海外進学費用は高いのでお金持ちか、才能のある一部の人にしかできない!中国、韓国など他のアジア諸国で海外進学者が多いというが、その多くは金持ちだ!にも関わらず、こうした前提条件を無視して一般家庭に生まれた学生に夢をもたせるような宣伝をするのは無責任だ」

まあ、「日本にありふれてる受験競争にも一定の能力が(そして一定のお金も)必要なわけで、同じ理屈を当てはめたら、日本での受験の重要性を説く人々も全部無責任になっちまいますぜ」というツッコミはまず置いておいて….。

最近、どこで見たかは覚えていないが自分の中でしっくり来ている名言がある。

それが「神の理屈と悪魔の理屈」
宗教的な要素はないのだが、どういう意味かというとね。

神の理屈に従う人は、全ての困難を「神の試練」だと思って、とりあえず克服のために手を尽くす。
例えば、お金がないのが悩みなら自分で稼いだり、キャリアアップしたり、進んで色々やってみる人のこと。

悪魔の理屈に従う人は、全ての困難を「悪魔のいじわる」だと解釈して、その困難の理由を(自分に都合が良いように)正当化する。
例えば、同じお金がないのが悩みでも、「親が悪い」「社会が悪い」「日本の不景気が悪い」と嘆いても仕方がないと現状に甘んじる人のこと。

: このコラムはマッチョ主義推進が目的ではないので100%神の理屈が正しいとも100%悪魔の理屈が悪いとも言うつもりはありません。ここで辛くなって読むのやめないでね(笑)。

人間は結局神でも悪魔でもないので、その上記2つの理屈を使い分けながら生きるのが普通。

私が腹立たしく思うのは、
「いらん大人が未来ある若者の将来に対して「悪魔の理屈」を押し付けるなよ」ということ。

前回のコラムにも書いたとおり、海外トップ大学進学を目指すためにやることリストは膨大であり、勉強一辺倒ではない各方面の自己ベスト努力が求められるのは周知。お金の要素も当然、選択肢の多さに関わってくる。私もお金の要素で不合格になった学校はあるし、教え子たちも、お金が足りなくて海外進学を諦めたケースもある。

けれど、頑張ってる若者というのは、えてして「自分には一部の特別な才能がある」とか思って頑張ってるわけではない可能性が高い。(周りから見てそれが本当かはともかく。)

そして、何が特別で素晴らしいか決めるのは本人+大学の入学審査官。
諦め時を知るのもたいていは頑張ったことがある本人。

その旅程に繰り出す前に、他人が訳知り顔で「これは特別な人間にのみ許されたオプションでしかない」と挑戦する前から諦めの理由を振りまくと、「確かに自分は特別ではないな。じゃあ関係ないな」とクロスオフする人が出てくるじゃないか。

『ビリギャル』も『バカヤンキー』(鈴木さんは個人的な友達なので、この呼び方は気が引けるのですが!)も、ネットでは時間が有り余ってるらしき人々が、

「あれはもともと地頭がよかったから出来た(だから自分は頑張っても出来ない)」
「結局金が必要だったから出来た(だから自分は以下略)」
みたいにウダウダと悪魔の理屈をバラ撒いているけど、

そういう自分は何一つこの人達に比べて優れたところがなかったのか?特別恵まれているところはなかったのか?(例えば何かの試験や大会でビリではなかった、とか。先進国日本に生まれた、とか)」
という感じで小一時間、問い詰めたい。

挑戦するのも諦めるのも、やってみての実感値なら当然尊重されるべきだが外野の(特に教育者の)ウダウダは不毛な騒音。これらのノイズに対する個人的見解をここで吐き出させてもらいました。

どうしてこんなに怒りモードなのかというと、こんな相談が来たからです。

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HN:申年男

はじめまして。僕は将来研究者になりたくて、学部からの海外進学を目標にしています。
皆さんのインタビューを拝見していると、華やかな内容も多いですが、やはり日本の学生が一番気にしてしまうのはお金の部分だと思います。
海外進学をするには、年間500万円ほど必要だと聞いています。僕の家は普通のサラリーマン家庭で、下に兄弟もいるので、とても払えそうにありません。やはり海外進学はお金のある人や、一部の才能のある人にしかできないのでしょうか?
僕は諦めるしかないのでしょうか?

まず、「プラクティカルな回答が欲しいのか、諦める理由が欲しいのか、はっきりせーーーい!」と言いたくなるところだが、そういう不安な気持ちを持つこと自体は申年君のせいではなく、上記のいらん大人たちの騒音のせいなので君に対して怒ってるわけではないよ。

そう、海外進学、特に英米トップ大学の学部進学において、お金の問題は厳然と存在する。
しかも、ストレートに(且つ馬鹿正直に)最近のアメリカ私立大学の学費&生活費全部コミコミを値札通りに払うなら、予算は500万円ではなくて700万円になってしまう。
この学費のヤバさにおいては、海外から来る学生どころか米国内の学生からも怨嗟の声が上がっていて、近々このシステムが崩壊するんじゃないかみたいな説もある。

けど、それはあくまで「値札通り払うなら」の話。

質問内容が「家にお金がそんなになくても米国のトップ大学に進学することは可能か」ということなら、答えは「狭き門だけど、十分可能」だ。

それにはいくつかのオプションがある。

1. HarvardやYaleなど、海外の学生に対してもNeed-Blindで学費免除制度(Financial Aid)を保有する大学に挑戦する。
※Need-Blind: 学費の支払い能力に関係なく、応募者全員を公平に審査するシステム

これは見ての通り狭き門。正確には、
Harvard University
Yale University
MIT
Princeton
Amherstの5校が有名。
どれも合格率5%くらいやんけ!という意味で難しいけど合格した際の援助もとても手厚い。

 

ブルガリア人の友達(現在27歳)が、「国が経済的に混乱してて、小さいころは配給ラインに3時間並ばないと米とか買えなかった。大学に行くためのお金は全くなかった。ヨーロッパの大学は学費こそ安いけど生活費がバカ高いので(本当です)。Harvardとかの全額学費免除+生活費支給(Full ride)でしか大学に行くオプションなかったんだよね」という理由でHarvard卒だったりする。これは相当衝撃的だったが、Harvard界隈にはこういう神の理屈でしか生きてこなかったようなキラキラした人がたくさんいて楽しい。

2. Need-Blindではないが、海外の学生に割りと高頻度で学費免除(Financial Aid)をオファーしている大学に挑戦する。
これは意外と行ける。何故かと言うと、超トップ大学でもあんまりそうでない大学でも、お金を出してでも海外生に来てほしい大学は結構たくさんあるから。逆に残念ながら、「海外からうちの大学に来るんなら全額払え」という大学もたくさんある。

どうやって調べればいいかって?ググれ。

え?ググり方がわかんない?
しょうがないなー。
1

これの一番上のリンクを押すと、こういう画面が出てくる。

2

で、州ごとの大学の、「こんだけ海外生に学費免除出してますよ」ってリストが晒されるので、とりあえずカリフォルニアで検索してみると。

3

公開情報にちょっと差があるが、カリフォルニアだけでもこーーーんなにたくさんの大学が海外から進学してくる学生にFinancial Aidをオファーしているのがわかる。

親御さんたちのために超親切に表の見方まで解説すると、
Total Annual Cost–1年の学費+コスト
# of Int’l Students–海外からの進学者総数
# of Awards– Financial Aidのオファー数
Average Awards– 平均支給額

希望があるなと思うのは、このリストの中には世界ランキング上位のトップ大学も、そこまででないけど結構有名な大学も、あんまり有名でない大学もまんべんなく含まれているところである。それぞれの学校にどれくらいの成績やスコアで入れそうか、というのはUS.Newsあたりで調べてもらうとして。

ちなみに、私自身も10年前の話だが、たくさんFinancial Aidを支給するDuke Universityに合格した際、全コストの3分の2をFinancial Aid支給されたので自己負担は毎年150-200万円くらいであった。もちろん運の要素もあるのでこういう学校の傾向をよく調べて、多めに出願することをおすすめする。

3. グルー・バンクロフト、フリーマン、ユニクロ、東進、リクルートなど、各団体がオファーしている返済不要スカラシップを利用する。
そこそこ狭き門だが、日本からのスカラシップは最近増えてきているので地味にググるべし(大学に合格してからもらえるものもあり)。リクルートに関しては、留学フェローシップに参加し、エッセイを書き、選ばれると年間300万円が支給されるとのことで非常においしいので是非挑戦しよう。

4. 高1段階でUWCに合格、進学し、上記1~3を手に入れる可能性を大幅に上げる。
特に今の中3生!来年に向けて頑張れ。
実際にUWCを利用した小野力くんのインタビューを見てね
※UWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ):国際感覚豊かな人材育成を目的とした国際的な民間教育機関。世界各国の高校生を対象に選抜を行い、合格者をカレッジに受け入れている。奨学生は生活費や授業料が支給される。長期の他にも夏季ショートコースもあるので、興味がある人はチャレンジしてみよう!(参考:https://www.keidanren.or.jp/japanese/profile/UWC/

 

5. 高1-2段階で1年の交換留学をして、上記1~3を手に入れる可能性を大幅に上げる。
これはホームスティ先の良し悪しがギャンブルだが、確実に能力はつくのでおすすめ。

6. 日本人に限らない全世界対象のスカラシップに挑戦する。
米国大学進学のためのスカラシップが意外と存在する。少額なものも結構あるが、上と同じ考え方で、とにかくググろう。私が代わりにググッてあげた結果を親切にも1個のっけておく。http://www.topuniversities.com/student-info/scholarship-advice/international-scholarships-study-us

7. 安くて入りやすいコミュニティ・カレッジ(の中でも名門州立の進学率が高いやつ)にまず入学し、優秀な成績を収め、州立大学に3年次より編入する。
これは鈴木琢也さんのコースですね。(詳しくはこちらのインタビューを見るべし)しかも安くない!という声がある。笑。 コミュニティ・カレッジの例えば上記の表にも登場するDiabloは諸経費含めて200万円いかない程度だが、UCバークレーに進学するとなるといきなり年間500万円になってしまう。

 けど、これはUCのシステムが悪い。世界一の公立大学だけど州民でない者には学費が高いのだ。
どうすればいいかって、レベルは高いけれどout of state(州民ではない)の生徒からしても安い州立を狙えばいいのだ。例えば、このトップ州立リストに名を連ねるOhio State、University of Minnesota,  University of Florida, University of Pittsburghあたりは、年間100万円以下の授業料(生活費別)で卒業でき、グローバル企業地元オフィスに強力なパイプがあったりするのでランキングの割に就職が有利だったりする。

 

8. 上記に挑戦してみたけど、ダメだった場合。または、時間的に挑戦することが難しい場合。
これは人にもよるけど、申年君は研究者になりたいと言っていたよね。

分野はわからないけど、研究者として日本の外で活躍したいなら、大学ではなく博士課程に挑戦するという手がある。アメリカの博士課程は、日本の学部を卒業するかしないかのときにアプライすることが可能で、就職と同じような扱いなのでお金がかからず逆に大学から生活費などがお給料のように支給される。だから、学費の心配をしなくていい。それまでに大学の学部での研究、論文のクオリティ、英語とかの能力を上げておくことは当然条件ではあるけれど、やりたいことが割りと決まっているのならそういう道もいいかもしれないよ。

はい。今日はこんな感じです。申年男くん、参考になったかな?
困ったらまたいつでもおいで!