ELT Blog Vol.2 日本人の英語力が危機的状況!なんで日本人はこんなにも英語ができないの?〜日本語と英語の言語間の差〜

<筆者プロフィール>
嶋津 幸樹11791829_10207349021704916_1226826644_n (1)
山梨県甲斐市生まれ。(株)EUGENIC創業者。
現在はロンドン大学教育研究所 在籍。独学でIELTS 8.0を獲得し、オックスフォード大学院・ロンドン大学院 ダブル合格 。専門は応用言語学 。ケンブリッジ英語教員資格 CELTA 取得。現在はタクトピア(株)にてNative MindTM 教材開発を行う。

 

こんにちは。タクトピア(ロンドン)の嶋津です。

先日から、「高校生の7割から9割が中学卒業レベル以下」という報道を受け、日本の英語教育界で盛んに議論がなされています。
文部科学省の調査が正しければ、「話す」技能において、高校生にも関わらず中学卒業レベルの能力しかない生徒が全体の89.0%に達しています。
つまり、ほとんどの日本の高校生は英語を話すことができないということになります。
僕は、この結果に何ら驚きも異論もありません。というのは、実際に自分の周りに日本の英語教育を受けて英語がペラペラになった人は一人もいないからです。

これほど文部科学省が国を挙げて色々な策を打ち出しているのに、なぜ日本人は英語ができないのか?先生の教え方(指導法)がいけないのか?はたまた教科書がいけないのか?そもそも大学入試がいけないのでは?

今この瞬間も日本の偉い方々が議論していることと思います。各問題に対する考えられる要因は置いておいて…(ドンっ)

今回はより根本的な日本語と英語の言語間の差」についてお話します。

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はい。この塔なんだか分かる人?

そう!バベルの塔ですね。旧約聖書の「創世記」中に登場する言語を枝分かれさせたとされる巨大な塔です。今なお人々への訓戒として現代に残る、とっても面白いストーリーです。気になる人はググッて見て下さいね。

さて、話をもとに戻します。

数年前のTOEFLの国別スコアランキングを見てみると世界トップ3位はオランダ、デンマーク、シンガポール。お隣の韓国が80位、北朝鮮が96位、中国が105位、そして日本が135位(びっくり!)

日本以外のTOEFL受験者はエリートばかりだ、こんな数字当てにならん!などいう批判をよく耳にしますが、実際にイギリスに来て、この数字は間違っていないと実感しています。

~なぜ、英語の勉強が日本人にとって難しいのか?~
オランダ人のクラスメイトに話を聞くと、英語の習得はさほど苦労しなかったと教えてくれました。それもそのはず、オランダ語と英語には共通点がたくさんあります。まず共通のアルファベットを使い、発音やイントネーションのパターンも似ていて、動詞の時制も同じシステムであり、単語に関しては英語と同じゲルマン系とロマンス系の語彙を使っているのです。

そして語順も英語と同じ主語(S)→動詞(V)→目的語(O)。ところが日本語の場合はどうでしょう?
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ここまでの説明はちょっとややこしいので、英語と中国語と日本語を例にとってみますね。
例えば、図書館という単語を英・中・日で表すと
英語:library 
中国語:图书馆 
日本語:図書館 

日本語と中国語は発音は違っても表記の仕方、つまり正字法(Orthography)が似ていますね。

では語順はどうでしょう?

愛しています。を英・中・日で表すとScreen Shot 0028-02-07 at 02.46.53英)I love you.
中)我爱你
日)私は あなたを 愛しています。

今度は似ていたはずの日本語と中国語でも語順が違いますね。

このように日本人が英語の習得に苦労するのは言語間の差(使用する文字や語順の違い)が大きいため、つまり英語と日本語の類似点が少ないからと考えられています。

アメリカの言語学者Robert Ladoは「類似点と相違点を分析することで学習者が間違えると思われる部分を予測できる」という考えを提唱し、様々な視点から類似点や相違点を分析してきました。(対照分析仮説と呼ばれています)。

言語間の距離が近ければ近いほど習得が容易になるということは明らかですね。
日本人が中国語の漢字を見たとき「何となく意味がわかる」のは表記の仕方が一緒であることから、母語が学習している言語に影響する言語転移(language transfer)が起こり、意味を推測することが可能になるからです。

1965年に言語間の難しさのタイプを分類した学者らがいます。
簡単に言うと、次のような問を考えたわけです。

英語にはあるのに日本語にはないものは何だろう?
日本語にはあるのに英語にはないものは何だろう?

ここでは文化にフォーカスしてみます。
まず英語の”rice”という単語を日本語にしてみると「米」「ライス」「ご飯」「白米」「玄米」などなどその呼び名は数多く存在します。しかし、英語で米は”rice”としか言いようがありません。
これは日本が米文化であることが大きく影響しています。お米といっても種類や状態が細かく分かれているため(細かく観察したり、管理していたりするので)、こうなるんですね。

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反対に日本語の「ひげ」は英語で何と言うでしょう?

英語では顔の部分毎に呼び名が存在します。
beard「頬から顎に生えるひげ」
mustache「唇の上に生えるひげ」
stubble「無精ひげ」
goatee「やぎなどの顎先のひげ」
whisker「ドラえもんのようなひげ」
と言ったように、欧米ではひげを生やす文化があるので表現も多種多様になります。
つまり一語一句英語から日本語に訳すことのできないものが数多く存在するということです。

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この理論では、①日本語には概念がないもの②日本語にあって英語にないもの③またはカタカナのように一見共通するように思えるものなどを難易度毎にタイプ分けしています。

どうでしょう?

日本語と英語は似ても似つかぬ関係にあるということが少しは分かって頂けたでしょうか?
共通点の多いアジアの言語などは日本人にとって習得しやすく、逆に西洋人にとっては難しいということがあるかもしれませんね。

僕が今日みなさんに伝えたかったのは、
英語を話せるようになる前に、まずは英語が話されている国の文化を理解することが大切だということです。
英語と日本語は全くの別物!
難しいのは当たり前。
時間がかかるのも当たり前。
それくらい英語を学ぶことは大変なことなんです。

ただ、苦しいことばかりにフォーカスせず、せっかく言語を習得するのであればコミュニケーションを取る相手のことをしっかり理解しながら学んだほうが、ずっと楽しく(&効率的に)英語が学べるはずです。

それではまた次回!